Arai Koh's Shogi Life

将棋ライター・アライコウのブログです。将棋について書いていきます。

明治27年の棋書に「棒銀」の単語を確認できました

【前回の記事】江戸時代から「馬鹿銀」と言われていた棒銀戦法

 前回の記事で、1909年(明治42年)の棋書に「棒銀」の単語が記述されているのを確認しましたが、またひとつ進展がありました。

国立国会図書館オンライン | National Diet Library Online

 1894年(明治27年)に、其中堂から出版された『新案定跡高等将棋秘訣 坤』。これに「平手(棒銀受)変化」という項目があります。ビューア上ではコマ番号27です。

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▲7六歩、△3四歩、▲2六歩、△8四歩、▲2五歩、△8五歩
▲7八金、△3二金、▲2二角成、△同銀、▲8八銀、△3三銀
▲7七銀、△6二銀、▲3八銀、△5四歩、▲2七銀、△5二金
▲2六銀、△4四歩、▲1五銀、△4二角

 という局面です。先手が角交換のあと、一目散に棒銀に出たのですが、最後の△4二角と打ったのが受けの妙手。これで先手の棒銀はこれ以上続きません。
 この4二角、かの木村義雄十四世名人も推奨した棒銀対策だそうです。

【参考記事】長生きするおたく 角換り棒銀vs.42角打 1

 実際は木村名人の創案とは言えないようですが、もしかしたら若かりし頃にこの本を読んだことがあるのかもしれませんね。
 ともあれ「棒銀」は明治27年までさかのぼることができました。さらなる調査を進めていきます。

新作将棋小説『令和以来の天才』をLINEノベルで連載開始!

【前回の記事】【予告】新しい将棋小説をLINEノベルで連載します

 先日予告したとおりですが、新作将棋小説『令和以来の天才』をLINEノベルで連載開始しました。

急ごしらえの表紙画像ですが……。

 かなりシリアスめのお話です。現在、LINEノベルの公式アプリがiOS版のみ公開されているので、iPhoneユーザーの方々はぜひよろしくお願いいたします。

novel.line.me

江戸時代から「馬鹿銀」と言われていた棒銀戦法

【前回の記事】「棒銀」という戦法名はいつから見られるようになったのか

 棒銀という単語の初出はいつ頃なのか、というのを調べているわけですが、新しい史料に行き当たりました。

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 1909年(明治42年)に将棋新報社から刊行された『獨習速成 将棋定跡解 全』。校閲者は関根金次郎十三世名人(当時八段)です。
 この中に飛車落の定跡が載っているのですが、下手方の戦法として

次に飛車の一例として「棒銀」と云ふのを出します(P131)

 と、棒銀で攻められた場合の上手の応手が紹介されています。結論はというと、

此将棋は下手方が飛筋より急に仕掛けて破らんと計りたる為めに端より反対に破られたので有ります飛落は急には飛車筋より破り難き物で有ります(P133)

 要するに「棒銀は基本的にダメです」と言っています。

 前回の記事で、棒銀がかつて「馬鹿銀」と呼ばれていたことも紹介しましたが、この馬鹿銀というのはどうやら江戸時代から言われていたようです。
 1916年(大正5年)に刊行された『定跡奥義将棋秘伝』という棋書があります。これは江戸時代の複数の定跡書を底本として編纂されたものですが、その中に『大橋家家元秘傳記』があります。そう、名人家元である大橋家の、門外不出の書です。明治維新後に家元名人制が消滅したため、明らかにされたというエピソードがあります。
 本書は1931年(昭和6年)に再刊されており、これが国会図書館デジタルコレクションで公開されています。

国立国会図書館オンライン | National Diet Library Online

 で、飛香落の手順のひとつとして「飛香落馬鹿銀」なる項目があるのです。

銀が棒に飛車の頭より上るを馬鹿銀と云ふ普通には無き法也(P23)

 やっぱりひどい言われようです(笑)。しかし飛車先に銀を繰り出していくのを棒にたとえるのは、江戸時代からあったことがわかります。
 これが棒銀とも呼ばれるようになったのはいつ頃か、まだはっきりとわかりませんが、明治時代までさかのぼれることは確定しました。さらに調査を続けていきます。

【続きの記事】明治27年の棋書に「棒銀」の単語を確認できました

将棋アイドル佐藤希さんを支援しよう! 1stシングル『ダイレクト向かい飛車』製作プロジェクト

 アマチュアの間でもいろいろな方法で将棋普及が行われていますが、今回ご紹介するのはこのプロジェクトです。

 札幌を拠点に活動している将棋アイドル、佐藤希さん(@NozomiSato2)の1stシングル『ダイレクト向かい飛車』製作プロジェクト!
 佐藤さんは現在23歳、そして女流棋士になる夢を追いかけながらアイドル活動をしているということです。
 目を惹いたのは、アマチュア大会での成績。

  • 2012年10月 全道高校新人戦 準優勝
  • 2013年10月 全道高校新人戦 準優勝
  • 2014年10月 全道高校新人戦 準優勝
  • 2015年9月 第8回女子アマ王位戦・北海道大会 優勝
  • 2018年9月 第11回女子アマ王位戦・東北大会 優勝

 たぶん私より強いんじゃないかと思います。こういう方が女流棋士になったら、将棋界はますます盛り上がりそうです。
 このプロジェクト、私もさっそく支援させてもらいましたが、All-In方式です。目標金額に関わらず、期日までに集まった金額がプロジェクトに使用されます。応援したいという方は、ぜひ!

「棒銀」という戦法名はいつから見られるようになったのか

 私が一番好きな戦法は棒銀です。加藤一二三九段の影響が大きく、相手が居飛車でも振り飛車でもよく使っています。
 で、前々から気になっていたのですが、そもそも棒銀という戦法名はいつから見られるようになったのか……ということです。飛車先に銀を繰り出していくという戦い方自体は、すでに江戸時代に見られています。

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 これは1642年、のちの三世名人・初代伊藤宗看が在野の強豪・松本紹尊と対局したときに現れた局面です。2六銀、まさに棒銀の形です。
 この局面は『日本将棋大系2・初代伊藤宗看』に掲載されており、解説の丸田祐三九段が棒銀という単語を用いています。しかし当時においてもこれが棒銀と呼び慣わされていたかは、ちょっとわからないわけです。

 棒銀という単語が初めて書名に使われたのは、おそらくこの棋書です。

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 1952年に加藤治郎名誉九段(当時八段)が出版した、『筋違角棒銀戦法』。この中に、このような記述があります。

棒銀なる名称は何時の時代に誰がつけたか知らないが、多分飛車と銀とが一線に並んだ形が棒状に見えるところからきたのだろう。(P111)

 もうこの時点で「棒銀って戦法名は誰が考えたんだ……」と謎だったようです。
 さらに時代をさかのぼって、1917年発行の関根金次郎十三世名人が著した『将棋勝敗此の一手』という棋書にも、棒銀についての記述があります。

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この二六銀を棒銀と申しまして素人の能く指す手でありますが高段の棋師は之を馬鹿銀と云って多く指さぬことであります(P30)

 ずいぶんひどい評価ですが、この時代はまだ棒銀の有用性に多くの人が気づいていなかった、ということでしょう。
 そして1916年、土井市太郎名誉名人(当時八段)が著した『将棊秘訣 陣立くづし法』という棋書にも「平手棒銀受」という項目で記述があります。

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 国会図書館の検索を頼りに、ひとまずは大正5年までさかのぼれたのですが、おそらくは明治時代の棋書や新聞記事にもあるんじゃないかなと思っています。調査は今後も続けていきます。

【続きの記事】江戸時代から「馬鹿銀」と言われていた棒銀戦法

【予告】新しい将棋小説をLINEノベルで連載します

 5月に将棋ライターとして本格デビューした私ですが、以前から将棋小説も意欲的に執筆しており、個人出版と商業出版のどちらも経験してきました。

俺の棒銀と女王の穴熊〈1〉

俺の棒銀と女王の穴熊〈1〉

 

もう3年くらい更新できてなくて申し訳ありません……。今年中には再開したい。

 

ご主人様は将棋名人サマ! (フレジェロマンス文庫)

ご主人様は将棋名人サマ! (フレジェロマンス文庫)

 

全然話題にならないですけど、気に入ってる作品です。


 で、今夏アプリサービス開始予定の「LINEノベル」に、新しい将棋小説を登録して連載しようと思っています。

novel-blog.line.me

 Web小説投稿サイトは「小説家になろう」や「カクヨム」などいろいろありますが、大企業であるLINEが運営し、またライトノベル界の大物編集者が参画していることで話題になっています。私は別に先方からオファーがあったわけではなく、一ユーザーとして投稿するわけですが、もちろんゆくゆくは商業出版を目指したいなと。将棋ライターとして紙の本を出版できたので、次は将棋小説を紙の本で、という夢を見ています。

 作品が公開できる時期が来ましたら、またお知らせします。

きっかけはひふみん! 将棋エッセイ『アラサー女が将棋始めてみた』

 近年は将棋ファンの拡大が著しいですが、それに関するエッセイ等が各所で見られるようになりました。今回ご紹介するのは、出版社KKベストセラーズのnote公式アカウントで連載されている『アラサー女が将棋始めてみた』です。

アラサー女が将棋始めてみた - note

 著者は金澤流都(@kanezya)さん。いったいどういうきっかけで将棋を始めるようになったかというと、ちょっと引用させてもらいましょう。

 その日、いつも通りNHKのクローズアップ現代をぼーっと眺めていると、一人のおじいさんが将棋盤を前にする様子が画面に映っていた。
 そのおじいさんは丸々と太っていて、例えるならNHKのキャラクターのがんこちゃんにそっくりで……ここまでくればもうご理解いただけると思う。加藤一二三先生である。民放でいうところの「ひふみん」である。
 その可愛らしい人物は、将棋盤を挟んだ状態でおもむろにカマンベールチーズを食べ始めた。びっくりした。フリーダムかよと思った。
 これがわたしと将棋の、衝撃的な出会いだった。

 ご存じ加藤一二三九段です。将棋普及に何より貢献するのは棋士のキャラクターであると思っているのですが、その点、加藤九段は棋界でも随一でしょう。きっと同じように将棋に興味を持った人がたくさんいるはずです。

 金澤さんは文筆家を目指しているそうですが、非常に自然体で読み応えのあるエッセイでした。それと本日ライトノベルの新人賞・電撃大賞の一次選考通過者が発表されたのですが、見事突破したようで、おめでとうございます(私も応募してたんですがダメでした・笑)

 このエッセイは現在、第3回まで公開されています。続きが非常に楽しみですね。

加藤一二三の5手詰め (パワーアップシリーズ)

加藤一二三の5手詰め (パワーアップシリーズ)

 

先崎学九段の『うつ病九段』が漫画化

【参考記事】空前の売れ行きが予想される先崎学九段の新刊『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』

 本日から文春オンラインにて、先崎学九段のノンフィクション『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』の漫画版が連載開始しました。

 作画を手がけるのは河井克夫さん(@osuwari)。漫画だけでなく俳優など、多方面で活躍している方です。
 冒頭で、いわゆる「将棋ソフト不正使用疑惑」について軽く触れられています。初めて見た方は、不正をした棋士がいたのか? なんて誤解してしまうかもしれませんね。今は正確には「将棋ソフト冤罪問題」とでも言うべきで、この記事を読んでいる方の中にはあまりいないと思いますが、もしこの問題を知らない人がいましたら、検索して調べてみてください。

 それはともかく、漫画というわかりやすい形でこの作品が知られるのは、よいことだと思います。ぜひ単行本化まで実現してほしいですね。

うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間 (文春e-book)

うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間 (文春e-book)

 

将棋連盟は堀口一史座七段を全力で守るべき!

 先日行われたC級1組順位戦の堀口一史座七段VS藤井聡太七段は、藤井七段が勝利しました。

 そして将棋ファンにとっては心苦しい事態になってしまいました。対局前から対局後にかけての堀口七段の様子が、「面白おかしいニュース」として出回ってしまったのです。対局前に何やらポーズを取ったことについては、注目の一戦ということでちょっとおどけてみせただけ、と私は思っていますが……(無論、好ましいことではないでしょう)。

www.shogi.or.jp

 堀口七段は棋戦優勝経験があり、順位戦ではB級1組にまで昇級した、大半の棋士よりも実績を積み重ねてきた強豪棋士です。このあたりについては、将棋ライターの松本博文さんの記事をご覧いただければひととおり知ることができます。

news.yahoo.co.jp

 将棋連盟の仕事のひとつが、所属棋士の名誉を守ることです。しかし今回、このようなことになってしまいました。
 病名は非公表ですが、どの対局でも早指し早投げせざるを得ないほど堀口七段の体調が悪化しているらしいことは、将棋連盟上層部はわかっていたはずです(「心の病」と断定している人もいますが、あくまで病名は非公表です)。いかに注目の藤井七段戦とはいえ、これを生中継しては堀口七段が「晒し者」になってしまう可能性は、ある程度予想できたはずです。AbemaTVにも無用な批判の矛先が向けられることになってしまいました。

 休場して静養するのが一番なのでしょうが、堀口七段にはどうしても休場できない理由があるのかもしれません。
 そうだとしても将棋連盟は、これは堀口七段本人の問題と放置していいものではないでしょう。どうか十分にケアし、サポートしてもらいたい。今回の事態を受けて、すでに本格的に動いている……と信じたいものです。

将棋連盟は棋譜・局面図のネット上での扱いについて公式見解を示してほしい

 ここ数日話題になっていますが、将棋連盟Liveアプリのアップデートが行われ、局面図ツイート機能が削除されました。
 どういう機能かというと、当ブログでも先日こんな記事を書きました。

【参考記事】新たなる棒銀の使い手! 服部慎一郎三段が公式戦連勝

 この機能はTwitterをやっている多くの将棋ファンが活用していました。「これは驚愕の一手!」とか、「こんな面白い棋譜コメントがあった」とか。何と言っても公式の機能だったので、誰もが遠慮なくツイートしていたわけです。
 ところが今回の機能削除。先日連盟理事に就任した西尾明七段によれば、「権利上の関係」ということでした。

 そして将棋連盟に問い合わせた方もいました。

 多くの人が想像していたと思いますが、棋戦主催者であるスポンサー(新聞社)からの要請ということで間違いはないようです。
 また、将棋ファンである伊藤雅浩弁護士(伊藤匠三段の父)は、この件に関しては否定的な見解を示しています。

 棋譜自体に著作権はない、とされているのですが、公式戦の棋譜・局面図の扱いについては、たびたび話題になります。以前にも藤井聡太七段が登場した朝日杯で、棋譜を元にリアルタイムで実況していた動画配信者が朝日新聞社から警告され、配信を取りやめるということがありました。

www.itmedia.co.jp

 私はこの件については「それは当然だろう」と納得していますし、スポンサーの利益獲得を阻害するようなことは、ファンとしては厳に慎まなければならないと思っています。さもなければ、契約金を支払ってスポンサーになろうという企業がなくなってしまいます。伊藤弁護士も同様の見解を示しています。

 整理すると、

  1. 棋譜そのものに著作権はない
  2. 棋譜コメントや観戦記には権利が発生する
  3. 無断のリアルタイム実況などスポンサーの商売の邪魔になることは慎むべき

 このあたりはほとんどの将棋ファンの間で意識が共有されていることと思います。

 

 しかし今回の将棋連盟Liveアプリのツイート機能削除は、いささか唐突でした。アプリの機能を削除するなら、普通は事前にスケジュールを決めて「諸般の事情につき、この日に削除します」などと予告するものです。今回は「スポンサーへの配慮ということなら仕方ない」と理解を示している人が多いはずですが、どんな理由があれ今まで使えていた機能が予告なく削除されれば、余計に物議を醸すのは当然です。 

 そして一番の問題は何かといえば、肝心の将棋連盟が棋譜・局面図のネット上での扱いについて、今まで公式の見解を示したことがないということです。少なくとも現在、将棋連盟サイトでは確認できません。

 どうも、何かにつけ将棋連盟は後手後手というか説明不足という印象なのです。「あまりガチガチにガイドラインを決めるのはよくない」とか、そうした声も上がってきそうですが、棋譜はプロ棋士の心血を注いだ成果物です。だからこそそれを管理する将棋連盟には、はっきりした見解を示してほしい。

 ということですので、時間はかかるでしょうが、ぜひ新体制の理事会とスポンサー各社には活発な議論を交わしてほしいと思います。あとできれば、法律のプロも交えて。