先日、ネット上に広まっている出典不明の「羽生善治語録」について取り上げました。
この件で疑問に思っている人はやはり多いようで、特にこちらの記事でとても詳しく調査されています。
羽生善治は「超一流は人の話を聞いて工夫する」と言ったのか、プロジェクト・グーテンベルク - ネットロアをめぐる冒険
膨大な羽生さん関連の書籍が調べられているのですが、例の発言は確認できなかったとのこと。それにしてもこの調査量には頭が下がります……。
私も私でのんびり調べてみようと思っていたのですが、気になる情報を見かけていました。『文藝春秋』の2003年の号に関連記述があるというものなのですが、そこでヤフオクから2003年11月号を手に入れて、実際に調べてみました。
そうすると、こんな記述がありました。
北海道警察警部補・剣道錬士七段(当時)の栄花直輝さんという方が執筆した【最強剣士「現代の武蔵」ここにあり】というエッセイです。剣道界ではとても有名な方のようです。※このタイトルは編集者が付けたんでしょうね。
最近、なるほど、と心に残ったのは、将棋の羽生善治さんの本のなかに、三流の人は人の話を聞かない、二流は人の話を聞くだけ、一流になると人の話を聞いて実行し、超一流はさらにそれを工夫してやる、とあったことです。
(中略)
さすがに羽生さんクラスの名人となると、どの世界にも通用する域に達しているのだなあ、と感心しました。(文藝春秋2003年11月号 P217)
前回紹介した『どんな人にも大切な「売る力」ノート』の記述とほとんど変わりません。ただしこれも出典元が書かれておらず……。
とはいえ、わかったこと、可能性が高まったことはあります。
- 羽生さんが本当に発言していたとしたら、2003年以前の書籍である(テレビ番組や講演での発言ではない)
- 「羽生善治さんの本」とあるので、将棋世界や週刊誌等の雑誌ではない
- 『どんな人にも大切な「売る力」ノート』の著者・津田晃氏の創作や思い違いという線は薄い
1と2はそのままです。3ですが、津田氏は一流のビジネスマンなので、文藝春秋を購読している可能性はあるでしょう。そしてこの箇所を備忘として書き留めておき、「羽生善治名人の言葉です」と、少し形を整えて著書に引用した(本当かどうか調べはせずに)ということは十分に考えられます。
「ネットロアをめぐる冒険」さんの調査では棋書の類はカバーしていないとのことでしたので、そのあたりを調べる必要もあるかもしれません。たとえば棋書の中にコラムがあって、そこに書かれていたとか。
しかしやはり、羽生さんはそんなこと言わないという気持ちも依然として強いです。ほとんどの羽生ファンがそうだろうと思います。
そこで可能性として思い当たったのは、
- 誰かの発言を羽生さんが自著の中で紹介した
- 羽生さんの対談相手が発言した
というケースです。このいずれでも「羽生善治さんの本に書いてあった」とは矛盾しないですよね。栄花氏がこのあたりのことを誤って解釈してしまった……という可能性です。
ともあれ調べるべき書籍は、ある程度絞り込めた気がします。また進展があれば記事にします。
【続きの記事】「三流は人の話を聞かない(以下略)」の調査の件、難航中です ※進展がないのに書いちゃいました。