Arai Koh's Shogi Life

将棋ライター・アライコウのブログです。将棋について書いていきます。

あの29連勝から1年。「東の天才」増田康宏六段、竜王戦で昨年の雪辱に臨む

 明日6月29日、竜王戦決勝トーナメントの第2回戦が行われます。初戦を快勝した藤井聡太七段が戦うのは、4組優勝の増田康宏六段です。

 思えばちょうど1年前、藤井四段(当時)が前人未踏の29連勝を達成したときの相手が、他ならぬ増田六段でした。彼としては、昨年のようにはいかないと雪辱に燃えているはずです。

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 増田六段は1997年生まれの20歳。奨励会入会後はきわめて順調に昇級昇段していきます。中学3年のときには早くも三段に上がり、史上5人目の中学生棋士となることが期待されていました。あいにくとそれは成し遂げられませんでしたが、それでも16歳という若さで四段プロデビューを果たします。

 プロデビュー後はその才能を遺憾なく発揮しました。特筆すべきは新人王戦の活躍で、2016年度、2017年度と連続で優勝しています。今期も勝ち進んでいるのですが、史上初の新人王戦3連覇という偉業が成し遂げられる可能性もあります。
 順位戦においても、めざましい勝率を上げています。昨年度は藤井七段、先日紹介した都成竜馬五段と並び、C級1組への昇級を果たしました。

 また、増田六段は現代将棋に大きな変革をもたらしました。プロ間ではほとんど指されなくなっていた「雁木」という戦法、その優秀性を再発見し、独自の工夫を加えて蘇らせたのです。
 今や雁木はもっとも研究盛んな戦法のひとつになっています。雁木も含め、現代将棋についてはいろんなところで語っているのですが、特に↓のインタビューの「矢倉は終わりました」が有名です。

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 実際には矢倉を指すこともありますし、今はこれを言葉どおりに受け取る必要はないのですが、いずれにせよ若者らしい率直な考えがファンを増やしている要因になっています。


 藤井七段が「西の天才」なら、増田六段は「東の天才」。その将来性は疑うべくもありません。
 そうして今期も竜王戦4組で優勝し、決勝トーナメントに進出しました。両者の対戦は昨年以来2度目なのですが、再び同じ舞台で相まみえるとは、何ともドラマ性のある展開です。
 今度の戦いはどうなるか? 増田六段の新研究が見られるかどうか、期待しましょう。

堅陣で圧勝! 対振り銀冠穴熊 (マイナビ将棋BOOKS)

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将棋界で働けるチャンス! 日本将棋連盟が来年春からの職員を募集中

 公益社団法人である日本将棋連盟も、毎年ではないですが一般の会社と同じく職員を募集しています。現在、平成31年度4月より勤務できる人を募集しているので、将棋界で働きたい人のために当ブログでも紹介しようと思います。

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【東京本部】
平成31年卒業見込みの方
※大学院、大学、短期大学、専門学校、高等専門学校
※既卒の場合(平成29年3月~平成30年3月卒の方)
※平成31年4月1日より勤務できる方。(期間の定めなし)
【関西本部】
35歳未満(職務経験不問)
※大学院、大学、短期大学、専門学校、高等専門学校卒業(平成31年卒業見込みの方含む)
※平成31年4月1日より勤務できる方。(期間の定めなし)

 資格はこのようになっています。

 将棋連盟での勤務を経て、『聖の青春』『将棋の子』などをヒットさせた作家が大崎善生さんです。将棋界という独特の世界での経験は、思わぬ形で人生に生きるかもしれません。

 締め切りは7月13日(金)で、募集人員は若干名。なかなか狭き門のように思いますが、将棋界を縁の下で支えたいと考える若い人たち、いかがでしょうか?

聖の青春 (講談社文庫)

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将棋の子 (角川文庫)

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編集者T君の謎 将棋業界のゆかいな人びと (角川文庫)

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夢までのあまりに過酷な道のり。『奨励会 ~将棋プロ棋士への細い道~』

 第63回奨励会三段リーグ戦は、全18回のうち9回戦まで終了しました。

第63回奨励会三段リーグ戦

 注目度が高いのは、以前も取り上げたことのある最年少の伊藤匠三段、また史上初の「女性棋士」を目指す西山朋佳三段ですが、ともに5勝3敗です。高くない順位のことを考えると、最低ラインはおそらく13勝5敗。許される黒星はあと2つ程度でしょう。いずれにせよ、ようやく折り返し地点。まだまだ長い戦いは続きます。

 過酷で有名な奨励会ですが、その普段の光景は積極的には発信されていないこともあり、将棋に詳しくない人には実情があまり知られていません。
 最近の将棋ブームで奨励会に興味を持ったとか、子供がプロ棋士になりたいと言い出したけど奨励会ってどんなところか知りたいとか、そういう人は結構多いのでは思います。そこでうってつけの本が、明日刊行されます。

奨励会 ?将棋プロ棋士への細い道? (マイナビ新書)

奨励会 ~将棋プロ棋士への細い道~ (マイナビ新書)

 

 著者は橋本長道さん。以前にも記事を書きましたが、橋本さんは元奨励会員の作家です。将棋関係者が奨励会について書くことは珍しくありませんが、実際に奨励会員だった人が作家という肩書で出版するというのは、おそらく初のケースではないでしょうか。

「元奨」が語るプロ棋士養成機関「奨励会」の実像

 

「どうすればプロ棋士になれるのか?」

 

本書はプロ棋士養成機関「奨励会」の実像を描くことで、その問いに答えるものです。

 

プロ棋士という職業が多大な労力を払ってでも目指す価値のあるものかどうか、という問題から始まり、奨励会の制度、戦い方、勉強法が元奨励会員である著者本人の述懐を交えて語られます。

 

プロ棋士養成機関「奨励会」とはどんな場所か?
どのくらい強ければプロ棋士になれるのか?
奨励会員の日常とは?
重要なのは努力か? 才能か?
夢破れた退会者のその後は?
そこは青春を捧げる価値のあるところか?


天才少年、天才少女が淘汰される奨励会という沼でもがき苦しんだ姿がそこにはあります。

 

将棋界に現れた超新星・藤井聡太ですら6連敗を喫したこともある奨励会。

 

その世界を本書でぜひ覗いてみてください。

 もちろん私も買わせてもらいます。みなさんもいかがでしょうか。

昇龍となるか? 大器・都成竜馬五段が竜王ドリームに挑む

 いよいよ明日6月25日から、第31期竜王戦の決勝トーナメントが開幕します。
 オープニングを飾るのは、ランキング戦6組優勝の都成竜馬五段と5組優勝の藤井聡太七段です。

 世間的には、やはり藤井七段に注目が集まるのでしょう。先月に史上最年少七段となった藤井さんですが、仮にこの決勝トーナメントを勝ち進み、羽生善治竜王に挑戦、そして竜王位奪取となれば、八段昇段が実現します。
 それに何と言っても、竜王戦は4,320万円という最高の優勝賞金が用意されています。そういう方面からの報道が増えることは、想像に難くありません。

 藤井七段の前に立ちはだかるのは誰か――というのは、将棋にあまり詳しくない人も気になるでしょう。当ブログとしても、この本戦に登場する棋士は平等に取り上げていきたいと思います。

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 都成五段は1990年1月17日生まれの28歳。2000年に奨励会入会で、四段プロデビューは2016年、26歳の年齢制限で奨励会を退会となる直前のことでした。これだけ見ると、苦労に苦労を重ねた遅咲きの新人という印象を受けます。

 しかしそれ以前から、彼は将来を嘱望されていました。2013年、まだプロではない奨励会員の身でありながら新人王戦で優勝したのです。もちろん史上初の快挙でした。
 また、卓越した序盤研究家としての面もあります。「都成流」「都成新手」と呼ばれる指し方が、プロの実戦で幾度も登場したほどです。プロの実力は確実にあるというのは、同業者ばかりではなく熱心なファンの間でもすでに知られていたのです。

 ようやく棋士デビューした都成さんは、それまでの苦労を吹き飛ばすように、周囲の期待に応える活躍をします。現在のところ通算勝率は7割を超えており、昨年度は藤井七段と並んで順位戦C級1組への昇級を果たしています。そして今回、竜王戦決勝トーナメントに名乗りを上げたわけです。また初の戦術書も出版し、好評を博しています。

振り飛車最前線 対中飛車 角道不突き左美濃 (マイナビ将棋BOOKS)

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 さて、都成五段の師匠は十七世名人の有資格者である谷川浩司九段です。
 都成五段は谷川九段の唯一の弟子です。小学生名人戦で優勝したこと、将棋と縁のある名前(竜馬)であったこと、そして誕生日が1月17日――谷川九段が被災した阪神大震災と同じ日であったことが、それまで弟子を取ったことのなかった谷川九段の心を動かしたそうです。
※谷川九段と阪神大震災のエピソードについては、将棋ペンクラブログの記事が詳しいです。胸打たれずにはいられません。

 谷川九段としても、今回大舞台に挑もうとする愛弟子の姿には、格別の思いがあることでしょう。
 なお谷川九段と都成五段の師弟関係については、つい先日刊行された『師弟 棋士たち魂の伝承』で大きく扱われています。大好評なので、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

師弟 棋士たち魂の伝承

師弟 棋士たち魂の伝承

 

 

 都成五段と藤井七段の過去の対戦成績は、藤井七段の3戦3勝です。将棋イベントの席上対局、つまり非公式戦では都成五段が1勝を返しているのですが、公式戦で勝たなければ――との思いは誰よりも強いはずです。
 はたして都成五段のリベンジなるか、それとも藤井七段が今年度無敗を継続するか。大注目の一戦です。

初心者の疑問を解決! 『なぜ?で始める将棋の基本』

 定期的にAmazonで将棋本の新刊をチェックしているのですが、今日はこんな本を見つけました。

なぜ?で始める将棋の基本

なぜ?で始める将棋の基本

 

 初心者が疑問に思うことをまとめた、という感じの内容みたいですね。

 これは将棋普及指導員(将棋連盟が認定するインストラクター)の方が執筆された本ですが、初心者を教えることにかけては、こうした在野の将棋指導者はプロに勝るとも劣りません。あらゆる疑問に明瞭簡潔な答えを用意しているのでしょう。
 最近子供が将棋に興味を持ったけど、上手く説明してあげられない――そんな親御さんなどが、手に取ってみる価値がありそうです。

『りゅうおうのおしごと!』スペシャルイベント りゅうおう戦in八王子

 今年の1月から3月にかけて放映され、将棋ファンにも好評だったアニメ『りゅうおうのおしごと!』。6月24日にスペシャルイベント「りゅうおう戦in八王子」が行われます。

ryuoh-anime.com

 この手の主演声優勢揃いのイベントは、アニメではよくあるんですね。収録の裏話など、きっとたくさん聞けるでしょう。会場限定グッズがいろいろあり、また作中でも登場した「あいちゃんの金沢カレー」が先行販売されます。

 現在、e+(イープラス)にて当日会場引換えのチケットを購入できます。アニメを見てファンになった方、お近くの方、余裕があれば足を運んでみてはいかがでしょうか?

「りゅうおうのおしごと! 」Vol.4 (初回限定版) [Blu-ray]

「りゅうおうのおしごと! 」Vol.4 (初回限定版) [Blu-ray]

 

痛恨の逆転負けから半年。藤井聡太七段、難敵に再び挑む!

 明日6月22日、王座戦挑戦者決定トーナメントの深浦康市九段vs藤井聡太七段が行われます。

 この両者、昨年末の叡王戦本戦トーナメントが公式戦初対局でしたが、多くの将棋ファンにとって忘れられない光景でした。
 正確な指し回しで一時は優位に立った藤井四段(当時)でしたが、深浦九段の強靱な粘りに押され、さらに秒読みに追われ、ミスを重ねてしまいます。最後に勝者となったのは深浦九段でした。
 その模様がニコニコの観戦記で詳しく描写されています。「崩れ落ちた中学生棋士」という見出しが、残酷ながら秀逸。

originalnews.nico

 先日テレビ朝日で放映された『アメトーーク! 将棋たのしい芸人』でも、この対局が紹介されました。ミスをした自分が許せないのでしょう、何度も何度もうなだれる彼の姿が映し出され、視聴者に大きなインパクトを与えました。

 不利になろうとも決して折れず、相手のミスが出るまで耐える。そして一瞬の隙を突いて逆転する。それができるのがトッププロということを藤井少年は痛感したはずです。しかし寝れば強くなるとまで言われる成長スピード、あの頃よりは確実に棋力も精神力も向上しているでしょう。
 はたして今回の対局でリベンジなるか、それとも深浦九段が再度トッププロの意地を見せるのか。注目していきましょう。

証言 藤井聡太

証言 藤井聡太

 

Amazon Prime Videoチャンネルで将棋番組が見られる!

 先日から「Amazon Prime Videoチャンネル」というサービスが開始しています。

 これは有料専門チャンネルをAmazonで楽しめるというもので、ラインナップの中にはCS放送等で見覚えのあるものも。
 そして「将棋プラス-α」というチャンネルが登場しています。

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 もともと「将棋プラス」という、囲碁・将棋チャンネルの兄弟版のようなサービスが展開していたのですが、それをAmazonのほうにも持ってきて、区別するために「α」とつけているようです。
 現在確認できる番組は、以下の4種類です。

  • めざせプロ棋士
  • 加藤一二三の将棋講座
  • 第13回 世界コンピュータ将棋選手権
  • 将棋プレミアムフェス in 名古屋

 サービス開始直後だからか、ちょっとボリューム不足ですが、今後どんどん充実していくのでしょう。
 ともあれプライム会員の方は、一度覗いてみるのもいいのではないでしょうか。登録したことがない方は、無料体験期間があります。「めざせプロ棋士」で藤井聡太四段(当時)がゲスト出演した回は、私も囲碁・将棋チャンネルのほうで録画して保存してあるのですが、見ごたえありですよ。

山本一成さんの『人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?』が将棋ペンクラブ大賞の文芸部門にノミネート

 優れた将棋関係の著作、書籍等に授賞する将棋ペンクラブ大賞は、今年で記念すべき第30回を迎えます。本日、その最終候補作が発表されました。

 私がいつも注目しているのは文芸部門です。ノンフィクションもあれば将棋小説もあり、一昨年はライトノベル『りゅうおうのおしごと!』が優秀賞に輝きました。優れた作品であれば媒体は不問という、懐の深さを感じさせます。
 そして今年も意外な作品が文芸部門にノミネートされていました。それが山本一成さんの『人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?』です。

 山本さんは将棋ファンにはご存じ、最強将棋ソフトとしてプロ棋士相手に無敗を誇った『Ponanza』の作者です。その開発を通じて得た知見や、そもそも人工知能とは何かということを、惜しみなく、そしてきわめてわかりやすく記述しています。私も確か発売してすぐ注文したのですが、これほど平易な人工知能入門はないだろうと思わせるほどです。

 これは厳密には将棋の本ではありません。もちろん将棋関係の記述も少なくありませんが、あくまで人工知能について書かれた本です。
 にもかかわらず今回、将棋ペンクラブ大賞の文芸部門にノミネートされたというのは快挙でしょう。山本さんがもっとも力を注いできた将棋ソフト、そこから見えてきた人工知能の世界というテーマは、まさに新規性に満ちた物語、万人に響くノンフィクションだと、審査員が認めたということなのだと思います。
 まだ未読の方は、ぜひこの機会に読んでみてはいかがでしょうか。

AbemaTVトーナメントが見せた、もうひとつの新しい光景

 先日、いよいよ開幕した新棋戦のAbemaTVトーナメント。
 フィッシャールールを採用した超早指し棋戦は、従来にはなかったエキサイティングな光景が展開されました。そして注目の藤井聡太七段が、負けなしで予選Aブロックを通過。非公式戦ではありますが、ほとんどのファンに好意的に迎えられたようです。

 AbemaTVトーナメントは、他棋戦とは比べものにならないスピーディーさが見どころですが、それとは別の新たな光景が見られました。それは「対局者が自分でチェスクロックを操作する」というものです。

 よく知られているように、プロの対局には記録係が付きます。
 通常は奨励会員の役割なのですが、女流棋士や研修会員が記録を取ることもよくあります。そして稀にですが、同じプロ棋士が駆り出されることも。

 これは5年前の上野裕和五段のツイートですが、当時から状況が変わっているのかというと、残念ながらそんなことはないようです。
 今回のAbemaTVトーナメントの開幕を受けて、大平武洋六段がブログ記事を投稿されています。

oohira243.blogspot.com

 とにもかくにも、記録係が足りない。5年どころか20年以上も状況は変わっていないのです。
 そしてプロ棋士と女流棋士は年々増えています。対局数も増え、状況がますます逼迫していくことは想像に難くありません。

 チェスでは、棋譜は対局者自身が書きます。それは世界大会であっても変わりません。

一手指すごとにチェスクロックを押し、両者が棋譜用紙に記入しています。

 このチェス界の慣習は、やろうと思えば将棋界にも取り入れられるのではないでしょうか。少なくとも、慢性的に不足する記録係をどうにか補充しようとするよりは、まだ現実的であるように思えます。
 実際にこれが提案され、試験的に導入されたこともあったようです。田丸昇九段のブログ(2012年7月28日投稿)にその当時のことが書かれています。

7月16日のブログ「公式戦の記録係の要員が不足している状況で提案された今後の対策」の再掲載: 田丸昇公式ブログ と金 横歩き

 将棋界をよりよく運営するために、少しずつでもいいので、改善の方向に進んでいってほしいと思います。

CITIZEN (シチズン) 対局時計 ザ ・ 名人戦 日本語・英語・中国語・韓国語対応 DIT-40

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