Arai Koh's Shogi Life

駆け出し将棋ライター・アライコウのブログです。将棋について書いていきます。

加藤一二三九段が7時間かけて発見した絶妙手をAIは?

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 先日の将棋山脈の記事は、ずいぶん多くのアクセスがありました。やはりみなさん、新しい技術には興味津々ですね。

araishogi.hatenablog.com

 そこで今回も、加藤一二三九段の名局を取り上げてみようと思います。加藤九段にとって初めてのタイトル獲得となった、1968年の十段戦から第4局です。当時の十段は全盛期の大山康晴。加藤九段はそれまで幾度もこの厚い壁に跳ね返されていましたが、ついに打ち破ったのです。このタイトル獲得で将棋棋士としてやっていく自信ができたと、加藤九段はいろんなところで語られています。

 さて、加藤九段のエピソードの中で特に有名なもののひとつに「1手に7時間考えた」というものがあります。その手が登場したのがこの十段戦でした。これは対局中に7時間考えたというわけではなく、1日目が終わって就寝するまでの間に5時間、2日目の対局再開から2時間考えたということです。この7時間で加藤九段は絶妙手を発見し、見事勝利に繋げました。おそらくは加藤九段の名手の中でも五本の指に入るでしょう。下の図がその局面です。

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 ここから▲4四銀△同金▲6二歩と進みます。これに△同金と応じてしまうと、▲4四角が金取りになる仕組みです。
 あるとき、加藤九段が渡辺明竜王にこの対局について話しました。

「先生、4四銀同金といったら、次は6二歩でしょう」
「え、渡辺さん、知ってるの?」
 私が驚くと、「みんな知ってますよ」
 そういうわけで、私がみつけた4四銀同金6二歩という手を知らない棋士は、将棋界では「勉強不足」ということになっている。*1

 自分の勝った将棋は9割が名局、と豪語する加藤九段らしいエピソードです。
 前置きが少し長くなりましたが、将棋山脈で自動生成された解説文にもこの手順は出てきました。上の局面の時点で、評価値はすでに相当先手に傾いていましたが――

 

加藤一二三 対 大山康晴

 

 候補手:▲4四銀 △同金 ▲6二歩打 △7一金 ▲4四角 △3三角 ▲2二飛成 △4四角 ▲2一龍 △9九角成と、最後を除いて実際の将棋と同じように展開しました。
 現代のAIなら、1秒もかからずに見つける手。
 しかし「加藤九段は7時間もかかった」などというのは、フェアではありません。

 これを私は、七時間の長考の末、発見したわけだが、とはいえ、もしかしたらほかの棋士はこういうかもしれない。
「そんなもの、私だったら一時間で気づきますよ」
 おそらくそうなのだと思う。事実、羽生さんなら一時間で見つけたかもしれない。
 けれど、それが人生というものであり、ここでいいたいのは、それだけの長時間、私は考え続けることができたという事実なのだ。「一時間で気づく」という棋士が、では七時間考え続けられるかといえば、それは別の話だろう。*2

 加藤九段がすごいのは、最善手のために7時間も考えられたことなのです。もういいや、と適当なところで思考を打ち切ってしまうようなことはなく、あくまでも最善手を見つけるために盤上没我する。この情熱こそが、長年トッププロとして活躍できた最大の理由なのです。

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*1:将棋名人血風録-奇人・変人・超人 P119

*2:羽生善治論-「天才」とは何か P38