Arai Koh's Shogi Life

将棋ライター・アライコウのブログです。将棋について書いていきます。

谷川浩司九段の復調に見る、日本将棋連盟の役員制度改革の必要性

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 本日放映されたNHK杯テレビ将棋トーナメント、谷川浩司九段vs佐々木勇気六段は谷川九段が勝利しました。
 対局前インタビューでは、最年長(56歳)であることに感慨深そうな谷川九段でしたが、タイトル通算27期、永世名人の有資格者という「格」の違いを見せつけた形です。

 谷川九段の今年度成績は、これで8勝7敗。前年度も17勝14敗(0.5483)と勝ち越しています。他のスポーツほどではないにせよ、将棋も加齢とともに力が衰えることは避けられない競技です。そう考えれば、谷川九段の現在の成績はさすがの一言でしょう。

 将棋連盟サイトには年度別成績が掲載されています、過去10年の谷川九段の成績をまとめてみました。

2008年度:18勝17敗(0.5142)
2009年度:21勝16敗(0.5675)
2010年度:11勝18敗(0.3793)
2011年度:10勝17敗(0.3703)
2012年度:11勝15敗(0.4230)
2013年度:14勝22敗(0.3888)
2014年度:12勝20敗(0.3750)
2015年度:11勝17敗(0.3928)
2016年度:12勝18敗(0.4000)
2017年度:17勝14敗(0.5483)

 ご覧のように、2010年代に入ってからは決して好調とは言えませんでした。これには明確な理由があります。
 谷川九段は2011年度に将棋連盟の専務理事に就任し、2012年度の途中から、亡くなった米長邦雄永世棋聖の後を継いで連盟会長の座に就きました。2017年1月、三浦弘行九段のソフト不正使用冤罪問題の責任を取って辞任するまで、およそ6年の役員活動でした。

 現役のプレイヤーが同時に運営者としても活動する――将棋界では木村義雄十四世名人の時代からの慣例になっていますが、こうした体制が本当にいいのかというのは、プロアマ問わず長く議論されていることでした。

 トレーニングに割ける時間が減るというのが、シンプルにして最大の理由です。有望な若手がどんどん出てきて、戦術も日進月歩の将棋界において、これはたいへん大きなハンデです。青野照市九段が理事時代に出した著書で、このように記述しています。

現在、私は日本将棋連盟の理事で運営者なので公務のほうがいそがしく、研究会の入るすき間はない。スマホ・パソコンでの対局観戦と詰将棋を解くのが、いまの勉強方法だ。*1

 会長当時の谷川九段も、同様だったはずです。まったくトレーニングできないわけではないにせよ、やはり不利と言わざるを得ない。田丸昇九段もブログで理事制度について書かれたことがあります。

将棋連盟の理事制度と理事選挙について: 田丸昇公式ブログ と金 横歩き

 現在の役員一覧を見てみると、会長以下、専務理事から常務理事まで現役棋士だけで構成されています(理事の杉浦伸洋さんは連盟職員)。

役員一覧|将棋連盟について|日本将棋連盟

 現場の声を反映させるという意味では、現役棋士の必要性もあるでしょう。それに棋士は「自分が何とかしたい」という気持ちが強いようで、役員決定の際のコメントを読んでもそれがわかります。

abematimes.com

 トーナメントプロとしての意欲は依然としてあるけれど、運営にも関わって将棋界をよくしていきたい――そうした棋士の気持ちは尊重しつつも、やはり現役棋士にあまり負担がかからないような体制づくりが求められるはずです。どちらも存分にこなすなど、現実的には厳しいのですから。そして外部の風を積極的に取り入れることもまた必要です。

 私見としては、理事以上の役員は全員とは言わずとも半数は引退棋士、あるいは完全に外部の人材を登用するのがよいと思います。制度改定には総会での決議から必要になり、非常にハードルが高いようですが、少しずつでも現状から改善されることを願っています。

将棋界の不思議な仕組み プロ棋士という仕事

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完全版 谷川流寄せの法則 (将棋連盟文庫)

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*1:『将棋界の不思議な仕組み プロ棋士という仕事』 P105