Arai Koh's Shogi Life

将棋ライター・アライコウのブログです。将棋について書いていきます。

もっと将棋作品を読もう!【ノンフィクション編】

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 もっと将棋作品を読もう、今回はノンフィクション編です。事実は小説よりもずっと面白かったりするわけで、前回のライトノベル編以上にオススメしたい作品が多いです。

聖の青春

聖の青春 (角川文庫)

聖の青春 (角川文庫)

 

重い腎臓病を抱えつつ将棋界に入門、名人を目指し最高峰リーグ「A級」で奮闘のさなか生涯を終えた天才棋士、村山聖。名人への夢に手をかけ、果たせず倒れた“怪童”の生涯を描く。第13回新潮学芸賞受賞。

 今年の春、松山ケンイチさんの主演で映画化されたので、そちらを見た方も多いでしょう。作者の大崎善生さんは『将棋世界』の元編集長で、その経験から紡がれる将棋界への愛と理知的な眼差しは、多くの将棋ファンの支持を受けています。今もいろんな場所で将棋関係の記事を書かれていますが、大崎さんなら本文を読むまでもなく安心できるという感じ。
 不治の病魔に冒された体でありながら名人を目指し、羽生善治と並び称された悲運の天才・村山聖。彼の師匠である森信雄。ふたりの師弟愛を軸に描かれる、悲しくも美しい棋士たちのリアル。もう今さら私が紹介するまでもない将棋ノンフィクションの金字塔ですが、映画しか見たことがない人は、ぜひこちらの原作を手に取ってみてください。今もなお愛される村山聖の生涯がより詳しく、切なく、激しく描かれています。

将棋の子

将棋の子 (講談社文庫)

将棋の子 (講談社文庫)

 

奨励会……。そこは将棋の天才少年たちがプロ棋士を目指して、しのぎを削る“トラの穴”だ。しかし大多数はわずか一手の差で、青春のすべてをかけた夢が叶わず退会していく。途方もない挫折の先に待ちかまえている厳しく非情な生活を、優しく温かく見守る感動の1冊。第23回講談社ノンフィクション賞受賞作

 全国から集まった、未来の名人を目指す子供たち。プロ棋士養成機関の「奨励会」に入会した彼らは、しかし誰もがプロになれるわけではありません。本作は心ならずもプロを諦めていった元奨励会員たちのその後を題材にしています。
『聖の青春』が万人の胸を打つ感動作ならば、『将棋の子』は万人の胸を締め付ける、苦さに満ちた現実です。しかしその苦さの中にも、大崎さんの文章からはやはり将棋、そして敗れ去っていったかつての若者たちへの愛情があふれています。
 一見華やかなプロ棋界、その裏にはこんなにも非情で、人間味に満ちた物語があるのだと、その心にゆとりがあるならば胸に刻んでみてください。

泣き虫しょったんの奇跡 

泣き虫しょったんの奇跡 完全版<サラリーマンから将棋のプロへ> (講談社文庫)

泣き虫しょったんの奇跡 完全版<サラリーマンから将棋のプロへ> (講談社文庫)

 

あきらめなければ、夢は必ずかなう!

中学選抜選手権で優勝した男は、年齢制限のため26歳にしてプロ棋士の夢を断たれた。
将棋と縁を切った彼は、いかにして絶望から這い上がり、将棋を再開したか。アマ名人戦優勝など活躍後、彼を支えた人たちと一緒に将棋界に起こした奇跡。
生い立ちから決戦まで秘話満載。

  一度は奨励会を去った男が、奇跡の末にプロ入りを果たす――まさに事実は小説よりも奇なりを体現した、瀬川晶司・現五段の半生が語られています。
 飾り気のない文章で綴られる、家族、師、ライバル、仲間たちとの絆。絶望に追い落とされてからの復活。その人間賛歌に満ちた生き様は、『将棋の子』を読んだあとだと、いっそう胸に染みるでしょう。瀬川さんの行動がきっかけとなり、その後「プロ編入試験」という奨励会以外のプロ入りへの道が作られました。彼の生涯の功績として、後々の世まで語られていくはずです。
 私が彼のことを初めて知ったのは、確かテレビ番組『奇跡体験!アンビリバボー』での特集だったと思います。その頃は将棋ファンではなかったですが、こんなすごい現実があるのかと思ったものです。これもまた映画化しないかなと思っているのですが。

追記(8月23日)

なんと映画化が決定しました。期待大!

www.shogi.or.jp

オール・イン ~実録・奨励会三段リーグ~

オール・イン ~実録・奨励会三段リーグ

オール・イン ~実録・奨励会三段リーグ

 

プロ棋士を目指す若者たちが人生をかけた戦いを繰り広げる「奨励会」。羽生善治を輩出した名門・八王子将棋クラブ出身で、小学生名人戦で準優勝した著者は、16歳で三段に昇段したものの、ついにプロ=四段になれず、26歳で年齢制限により退会を余儀なくされた。失意のうちに漂流していたその1年後、今度は舌がんの診断を受け、完全に将棋の夢が断たれてしまう。15年以上にわたる苦悩の青春と、当事者が見た過酷な奨励会の世界を本人が赤裸々に振り返る。

 将棋にすべてを注ぎ込み、夢破れた天野貴元(あまの・よしもと)さん。それだけなら、ある意味でありふれた物語ですが、彼が他の元奨励会員と違うのは、舌がんという死の病に侵されたことでした。オール・イン――賭博用語で全部賭けてしまうことを意味するタイトルが、あまりにも悲しい。
 内容は意外にもそれほどしんみりしておらず、彼の生来の人柄ゆえか、カラッとしています。余命宣告され、死の縁に足をかけながらも懸命に踏みとどまろうとし、全国各地のアマ大会に参加。数々の優秀な成績を残しました。
 天野さんは本書出版からおよそ1年半後、30歳の若さで亡くなりました。しかし最期の日まで将棋を諦めず、プロにも再挑戦した彼の姿は、ずっと語り継がれていくでしょう。

介護士からプロ棋士へ 大器じゃないけど、晩成しました

介護士からプロ棋士へ 大器じゃないけど、晩成しました

介護士からプロ棋士へ 大器じゃないけど、晩成しました

 

幼い頃から将棋を始め、中学2年生で一度はプロ棋士への道へ歩み始めるも、2度も退会を余儀なくされ、その度に類いまれな努力と忍耐力で復活を遂げて来た今泉健司さん。本書では41歳という戦後最年長でプロ棋士合格を果たした彼の生い立ちから2度の挫折、決戦までを綴ります。40歳をすぎて夢を実現させた「41歳のオールドルーキー」今泉健司さんの「大器晩成」の成功の秘密とは?
「可能性にふたをしなければ、年齢なんて関係ない!」
ーー今泉さんの人生は、期せずして名言に彩られている。

 瀬川晶司さん以降、プロ編入試験の合格者は現れませんでした。それどころか、受験資格を得る人すら出なかったのです。それほどにプロ棋士への道は険しかったわけですが、本書の著者・今泉健司さんが初の合格者となりました。そんな彼もまた、激動に次ぐ激動の人生を送ってきたのです。
 特に年齢制限での奨励会退会後、三段リーグ(奨励会の最終関門のリーグ)への編入に成功しながら、再び成績不振で退会しています。普通の人ならここで「投了」のところ、彼は諦めませんでした。そして三度目の正直。今泉四段が誕生したそのとき、私たち将棋ファンは歓喜に打ち震えたものです。
 人間いくつになっても、夢を叶えられる。今泉さんは当時も、そして今もそのことを教えてくれています。

 

 

 いかがでしょうか。将棋ノンフィクションはこの5冊を抑えておけば、まず間違いないでしょう。