Arai Koh's Shogi Life

将棋ライター・アライコウのブログです。将棋について書いていきます。

『りゅうおうのおしごと!』第7巻は現代ライトノベルの新手筋

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 アニメ化が始まったことで、ますます売上を伸ばしている将棋ライトノベル『りゅうおうのおしごと!』。先日、最新刊の第7巻が発売されました。さっそく好評価が集まっているようです。

りゅうおうのおしごと! 7 (GA文庫)

りゅうおうのおしごと! 7 (GA文庫)

 

 私もAmazonから届いたその日のうちに読み終えましたが、第1巻からずっと右肩上がりで盛り上がるっていうのは、数多あるライトノベルの中でも珍しいのではないでしょうか。白鳥士郎さんの卓越した実力と、将棋というテーマが内包するこの上ない熱さを示すものです。

 さて、第7巻はこれまでの中でもひときわ挑戦的でした。
 メインキャラクターとなったのは、主人公・九頭竜八一の師匠である清滝鋼介九段です。八一たちを影ながら見守る大人、基本的にはそんな立ち位置ですが、第1巻冒頭の「オシッコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」をはじめ、コメディ要員としての存在感も強いキャラクターです。そんな彼がフィーチャーされるとは、まさか思いもよらないというもので。

 そして描かれるのは、もはや全盛期を過ぎて下り坂を転げ落ちる運命の、悲しい中年棋士の姿でした。圧倒的優勢から一手頓死し、子供のように盤の前で泣きじゃくる。このシーンのいたたまれなさは、シリーズ屈指でしょう。A級に在籍し名人にも挑戦したことがあるという「実績」すら何の役にも立たず、まだプロですらない奨励会員にも辛辣にあしらわれる始末。

 その後はいろいろあって奮起するのですが、とにかく50を過ぎたオッサンがこれでもかと見せ場を作ります。ファンタジー作品等では、歴戦の古強者が若者のために道を開く、それに若者が感銘を受ける――といった展開はしばしば見られるでしょう。しかし『りゅうおうのおしごと!』のような現代ライトノベルで、こんなストーリーが見られるとは。それも清滝の場合、第一に自分のため、自分がひたすら勝ちたいからなんですね。弟子や娘に恥ずかしくない姿を見せるというのは二の次。ひたすらに、ガムシャラに、泥臭く戦う。ただ勝ちたいから。老若男女の区別なく戦える将棋という競技だからこそ、このようなストーリーを紡ぐことができたわけです。

 これほどまでにオッサンをカッコいいと思えるライトノベルは、そうそうないはずです。アニメがきっかけで原作を読みはじめた人たちは、早くこの最新刊まで辿り着きましょう!