これまで紫綬褒章を受章した棋士は?
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今朝、驚きのニュースが飛び込んできました。
森内俊之九段の紫綬褒章(しじゅほうしょう)受賞!
内閣府のサイトから引用すると、紫綬褒章は「科学技術分野における発明・発見や、学術及びスポーツ・芸術文化分野における優れた業績を挙げた方」が授与の対象となるようです。
完成されたゲームである将棋は、江戸時代の昔から時の権力者と民衆に愛されてきました。そして戦後しばらくすると、芸術文化としての側面も持ち合わせるようになりました。優れた棋士が紫綬褒章の授与対象となるのも、ごくごく自然なことであるのです。
今回はこれまで紫綬褒章を受章した棋士たちをまとめてみました。さすがにどなたも大棋士と呼ぶにふさわしい方々です。
- 木村義雄(1960年)
- 升田幸三(1973年)
- 塚田正夫(1975年)
- 大山康晴(1979年)
- 二上達也(1992年)
- 加藤一二三(2000年)
- 米長邦雄(2003年)中原誠(2008年)谷川浩司(2014年)
- 佐藤康光(2017年)
- 森内俊之(2017年)
木村義雄(1960年)
将棋棋士ではじめて紫綬褒章を受章したのは、木村義雄十四世名人です。
終身名人制を廃した関根金次郎十三世名人に代わって、初代の実力制名人となった彼は、戦前から戦中にかけて無敵を誇りました。戦後には一度名人の座から陥落しますが、不屈のカムバックを果たします。やがて大山康晴八段(当時)に敗れて引退しますが、そのときの「よき後継者を得た」という言葉は将棋の歴史上屈指の名言です。
定跡の整備にも尽力し、駒落ち定跡をまとめた『将棋大観』はロングセラーになりました。私もAmazonのマーケットプレイスで買って持っています。もちろん今なら、より洗練された駒落ち定跡書があると思いますが、その格調高い文章は現代の棋書には見られないものです。
受章したのは1960年。引退から8年後のことです。大名人としての実力はもとより、現在まで繋がるプロ将棋界の礎を築いた功績は、非常に大きいものでした。
升田幸三(1973年)
天衣無縫、豪放磊落。将棋の歴史上、もっとも愛されている棋士のひとりである升田幸三実力制第四代名人。
「名人に香車を引いて勝つ」
子供の頃に抱いた、誰からも笑われるような夢。それをついに実現させた空前絶後の男として、その名は将棋史に刻まれています。彼の生涯については自伝の『名人に香車を引いた男』がめっぽう面白いので、まだ未読という将棋ファンの方はぜひとも読んでみてください。
受賞したのは1973年。現役晩年でしたが、それでも一流の証である順位戦A級からは一度も陥落することがありませんでした。「新手一生」を掲げ、数々の独創的な手を編み出した天才升田の業績は、紫綬褒章という形で最高の評価をされたわけです。
塚田正夫(1975年)
木村名人から初めてその座を奪ったのが、塚田正夫実力制第二代名人です。
歴代の名人の中で、彼についてはあまり語られることがありません。しかし名人位以外にも九段戦(現在の竜王戦)4連覇など、一流の戦績を収めています。故・河口俊彦八段は著書で「勝負師木村、大豪は升田、史上最強といえば大山。そうした大物達の影にかくれがちだが、塚田には、名匠、がぴったりである」と述べています。*1
また塚田名人は詰将棋作家としても知られており、その作品群は現在でも愛されています。かつては優れた詰将棋作品に対し、彼の名を冠した「塚田賞」が与えられていました。
受賞したのは1975年。棋士として、そして詰将棋作家として優れた業績を残したことが受賞理由だったのだと思います。
大山康晴(1979年)
昭和を代表する棋士にして、史上最強のひとりと言われる大山康晴十五世名人。
その偉大な記録の数々については、ひとつひとつ挙げていったらキリがありませんが、特に名人位18期、順位戦A級連続44期在籍、タイトル戦連続50回登場、66歳のタイトル挑戦などは、今後まず破られないと思われます。
受賞したのは1979年。というか紫綬褒章以外にもたくさん受賞してます。1990年には将棋界初の、そして現在でも唯一の文化功労者に選ばれました。
二上達也(1992年)
タイトル戦登場回数26回、うち獲得5回。順位戦A級通算27期など超一流の棋歴を持ち、塚田名人同様に詰将棋の名作家であり、また羽生善治棋聖の師匠としても知られるのが二上達也九段です。
二上九段が一流なのは将棋だけでなく、棋界の運営者としての手腕もでした。将棋連盟会長を歴代最長となる14年間務め、女流棋戦の活性化や国際将棋フォーラムの開催等、将棋がより普及するように尽力したのです。紫綬褒章を受賞したのは1992年ですが、その後の功績も大と言えます。
加藤一二三(2000年)
ご存じ我らが加藤九段!
いかに素晴らしい業績を残したか、先日気合い入れて書いたばかりですので、こちらをお読みください。
米長邦雄(2003年)
中原誠(2008年)
谷川浩司(2014年)
この3人についての棋歴も、先日に書いた記事を参照していただいたほうがよいでしょう。最年長名人、十六世名人、十七世名人。3人ともが、将棋の歴史上十指に入る業績の棋士です。
佐藤康光(2017年)
実力制第十代の名人。タイトル獲得数は歴代7位の13期。永世棋聖の有資格者。現役の中でも屈指の実績を誇る佐藤康光九段は、今年の春に紫綬褒章を受章しました。
羽生世代のひとりとして数々の熱戦を繰り広げ、デビューから現在まで将棋ファンを沸かせ続けています。そしてその真骨頂は、他人がとても真似できないほど独創的な指し回し。新手を発案した人に贈られる升田幸三賞を二度も受賞しています。
現在は将棋連盟会長としても多忙な日々を送っています。対局との両立は想像を絶するほど大変でしょうが、熱い将棋をまだまだ見せてほしいものです。
森内俊之(2017年)
そしてこの秋、森内九段が受賞しました。
羽生棋聖の幼少期からのライバルで、若い頃から将来を嘱望されました。しかし周囲の予想に反してタイトルには30歳まで縁がありませんでした。悩んだ時期は決して短くなかったでしょう。
長いトンネルを抜け、ついに掴んだ初タイトルこそ、名人でした。以後、森内九段は名棋士への階段を駆け上がります。特に名人戦においては無類の強さを発揮し、通算5期で獲得できる永世名人の資格に関しては、羽生棋聖よりも早く獲得しています(十八世名人)。また2002年から2015年までの名人位は、羽生森内の両名がずっと分け合っていました。まさに平成の大名人です。
そんな森内九段も、今年度から順位戦に参加しないフリークラスに転出。将棋連盟の理事として、運営に参画するようにもなりました。もう二度と名人位に返り咲くことがないのは残念ですが、これまでと違う形の活躍を見せてくれることでしょう。
*1:新潮文庫『人生の棋譜 この一局』 P137