Arai Koh's Shogi Life

将棋ライター・アライコウのブログです。将棋について書いていきます。

将棋ファンは要プレイ! 青春AVG『夏ゆめ彼方』

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 将棋をメインコンテンツとするこのブログにとって、最高のアドベンチャーゲームがリリースされました。

www.freem.ne.jp

父親との死別で塞ぎ込んでいた『天才小学生』朝川桂一は、ある日『神様』を自称する巫女服姿の少女と出会う。
少女との交流の中で、桂一は将棋のプロ棋士になりたいという自らの夢を思い出していく。

夏×伝奇×将棋!
『夢』をテーマにしたノスタルジックな青春ノベルゲームです。

 サークルペットボトルココアの『夏ゆめ彼方』。主人公はかつてプロ棋士を目指していた少年……これだけで将棋ファンの私にとっては食指を動かされましたが、いざダウンロードしてみたら全体的なクオリティが高くてスムーズにプレイできました。ツールは吉里吉里が使われています。

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 将棋を扱った物語というと、やさぐれた大人や中学生以上の学生が多いですから、小学生が主人公というのはかなり珍しいですね。桂一は小学生にしてはあまりにも大人びた思考の持ち主ですが、現実でも藤井四段があれほど落ち着き払ってますから、全然アリでしょう。ロリ神様、重度のブラコンの妹、ごく普通に小学生男子しているクラスメイトといったキャラクターに囲まれているので、絶妙にバランスが取れていると思います。

 さて、私も小説で書いているからわかるのですが、将棋作品には「いかに将棋を知らない人にもわかりやすく書くか」という命題があります。その点、本作は問題ありません。将棋にはいろいろと専門用語がありますが、さらっと流すことはなく、しかしクドクドと説明することはありません。しっかり要点を押さえて、かつ読みやすさが保たれていたと思います。
 将棋をテーマにしたフィクションは現実の将棋界の対局や出来事をモチーフにすることが多々ありますが、本作もその例に漏れません。△6六銀。この符号だけでコアな将棋ファンはニヤリとできることでしょう。

 本作には選択肢がひとつだけあり、ルートが2つに分かれています。はたしてどちらが幸せだったのか……。なぜ判断に困るかというと、メインストーリーのあとに開放されるアフターストーリーがあまりに辛いのです。将棋界の厳しさはいろんな作品で語られていることですが、本作の展開はちょっとした衝撃。以下ネタバレなので、反転してお読みください。

 主人公はしっかり夢を叶えてプロ棋士になるんだな、とそれまでの展開からして想像できるじゃないですか。ところがそうはならないんですよ。夢破れて故郷に戻り、ヒキニートに落ちぶれてしまいます。ゲームばかりにのめりこみ、あれだけ慕ってくれた妹からは蔑まれ、母親には身勝手に当たり散らし……。こんな姿は見たくなかったと思いつつもクリックする手が止まりません。プロ棋士の夢破れこうなった人間たちは、現実にも数多くいただろうなというのが想像できてしまうからです。非常にリアルなんですね。
 将棋さえやっていなければ……そう後悔しながら、あの夏の少女に出会いに行く。心の底では将棋を捨てられないことを思い知らされる。このあたりは想定どおりでしたが、悠久の時を生きる神様というキャラクターが活きていました。
 そして一アマチュア棋士からやり直し、40歳を越えてプロ編入試験に合格――これも現実にあったことなのですが、そうとわかっていても涙腺が潤みそうになりました。

 将棋への愛がいたるところに詰まった、素晴らしい青春ストーリーでした。将棋ファンはぜひともプレイしていただきたいです。もちろん将棋を知らない人でも、きっと楽しめると保証します。